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2009/02/24

クロアチア旅行記|初日。ザグレブ。アドリア海サンクコスト。

2009年2月14日(土)

僕は搭乗時に決して荷物を預けないので、他のどの乗客よりも早く到着ロビーに姿を現すことになる。そしてロビーで待ち受ける人々は自動ドアが開くと同時に、一斉にこちらを見やり、そして眼で語りかける。
 「……誰?」
 彼らの気持ちはよく分かる。家族や恋人の到着を今や遅しと待っている中でようやく開いた自動ドア。そこに現れたのは待望の家族でも最愛の恋人でもなく、軽装のアジア人。
 そんな視線を浴びて、僕は自分が異国の地に来たことを実感する。

 21:00、パリのシャルル・ド・ゴール空港を経由して、クロアチアのザグレブ国際空港に降り立った僕が必要としていたのは、暖かな歓迎よりも、冷たいATMだった。
 差し当たり僕は現地通貨Kn(クーナ)を持っていない。更にユーロもドルも持っていない。事前に空港の両替所が21時で閉まるという情報を得ていた僕は、現地通貨の供給をATMに一任していたのだった。万一ATMが使えなから、エアギターで稼ぐしかないと覚悟を決めて僕はこの地にやって来た。
 だから、到着ロビーにある両替所が開いていたときには我が目を疑った。情報が間違っていたのか、国際線の到着があったから延長したのかわからないが、確かに開いている。
 こんなことならエアギターなんかじゃなくて、ドルなりユーロなりを持って来るのだった。持ってきたエアギターがひどく重く感じられる。
 僕は窓口で談笑する職員を横目に、ATMで現地通貨クーナ(Kn)を引き出した。
 紙幣の人物は到着ロビーの人々と同じ目で僕を眺めていた。

 満員の空港バスに乗ってたどり着いたザグレブの長距離バスターミナルは、本当に24時間営業だった。
 事前情報で「Opening hours: 24 hours a day - 7 days a week」とあったものの、どうせドアが開いているだけだろうと高をくくっていたが、きちんと窓口も開いている。"Dubrovnik"の発音に苦戦しながらも、適当に「ドゥ」だの「ヴ」だの言っていたら、ドゥブロヴニク行きのバスチケットが手に入った。

 ただ、事前情報と異なり、クレジットカードを使うことはできなかった。窓口のおばちゃんに、「Do you accept Credit Card?」と聞いたのだが、「No.」と言われてしまった。この"accept"しない"you"がチケットオフィスを指しているのか、おばちゃん個人を指しているのかは不明である。
 それにしても21時に空港に着き、21時20分に空港バスが発車。そして21時50分にバスターミナルで手にいれたチケットは22時30分発。なんという美しい流れ。
 これで明日の朝にはドゥブロヴニクに着いている。自身の完璧な計画に酔いしれた僕は、「パリから直接ドゥブロヴニクに飛んだらもうとっくに着いているはずだ」という事実を、サンクコストとしてアドリア海に放り込んだ。

 『地球の歩き方』によると、ドゥブロヴニクに向かうバスは右側がおすすめらしい。アドリア海沿いに走るバスからの眺めは必見であるという。
 僕は右側の席をリクエストしなかったことを後悔したが、乗車してすぐにその必要はなかったことを知った。空港からのバスとは対照的に、ドゥブロヴニクに向かうバスの乗客は閑散としていたからだ。これが今後何度となく出会うことになる、「但し冬は除く」とのファーストコンタクトであった。
 『地球の歩き方』にある情報の多くは、夏に旅行することを前提にしている。確かにクロアチアがビーチリゾートの国であることは一週間旅行して感じられたので、そのこと自体は非難されるものではない。(記載のある冬期の営業時間が全くいい加減なのはどうかと思うが)。読者としては『歩き方』の行間に、良くも悪くも「但し冬は除く」という文言を叩き込む必要がある。

 僕は苦もなく右側を確保し、胸を高鳴らせてバスの発車を待っていた。そもそも夜だから景色など一切見えないと気付くのはもう少し後のことである。