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2009/03/11

クロアチア旅行記|四日目。スプリット。宮殿スチューデント。

2009年2月17日
 ドゥブロヴニクの街は存分に歩き回ったので、そろそろ日本に帰ろうかと思ったが、帰りの飛行機まであと5日ほどあったので、別の街にも顔を出すことにした。次の目的地はスプリットである。

 スプリットはアドリア海に面した港町であるが、特徴的なのはその成り立ちである。この町はディオクレティアヌス帝の宮殿がそのまま街並みになっているという。
 ディオクレティアヌスと言えば、世界史履修者にはお馴染みの名前である。何をした人かは全く覚えていないが、とりあえず宮殿を建てたことは確かだ。その宮殿がそのまま街並みになるという意味がよくわからないので、見に行くことにした。
 ドゥブロヴニクを朝の7時に出発し、スプリットに着いたのは13時だった。このスプリットに至って、客引きの数はドゥブロヴニクの“1”を下回る“0”を記録した。繰り返すが、これから冬にクロアチアを訪れる人は、決して“但し冬は除く”の原則を忘れてはならない。
 地図を見ながらバスターミナルから宮殿のある方向へ歩くと、ほどなくしてそれっぽい石造りの城壁が見える。そして城壁の手前には多くの屋台が連なる市場がある。それを見てなるほどあの宮殿を中心として街が広がっているのかと早合点したのだが、そうではなかった。スプリットの街は正に宮殿の中にあったのである。
 とりあえず宮殿の中を見てみようと城壁の門をくぐると、しばらく薄暗い地下道が続き、左右に土産物屋が並んでいる。いかにも観光地らしい光景を見ながら、地下道を通り抜けて再び地上に出ると、そこにまた街があるのだ。
 “宮殿がそのまま街並みになっている”と聞いて、僕は江戸城とその城下町のような関係を思い浮かべていたのだが、そうではなく、街は江戸城のお堀の内側に作られていたのだった。この光景を見てシロアリを思い浮かべたことは日本とクロアチアの友好のために黙っておこうと思う。

 街並みはあとでじっくり見るとして、僕は人の宮殿よりも自分の宿の心配をしなければならない。僕を宿へといざなってくれる白馬に乗った客引きは現れなかったのだから。
 とりあえずインフォメーションで宿を斡旋してもらおうと、地図を片手に街中をうろつくが、なかなか発見できない。僕は方向音痴なので、こういう場合見つけるのに時間がかかるのだ。本の向きを変えたり、自分の向きを変えながら探すのだが、なかなか見つからない。このとき、街中で幾つかの箇所で工事をしていて、よりわかりにくくなっていた。
 僕は恨めしげに内装工事中ですっからかんになった建物を見遣ると、建物のガラスに“imformation”の文字があるのを発見した。そう、工事中である当のその建物こそ、僕が探しているインフォメーションだったのである。冬だから開いていないというレベルを超えた豪快な閉まりっぷりである。ちなみに、大聖堂も工事中で開いていなかったことを付記してこう。
 僕は『歩き方』に載っていた“Split Hostel”に宿を取り、街歩きを開始した。

 街歩きの前に腹ごしらえをしなければならないので、Split HostelのMaryがお勧めしてくれたレストラン“fife”へ。『歩き方』にも載っているし、英語メニューもあるのだが、店内は常連とおぼしきオヤジが多くいる、地元色の強いレストランであった。ここでレモネードを片手に主食のシーフードリゾットを補給し、街歩きに備えた。


 店を出るとまずは宮殿の地下へ。入場料を払おうと100Kn札を受付の兄ちゃんにわたすのだが、釣りがないという。僕の方もあいにく細かいお金はfifeで使ってしまい、小銭は10Knしかない(入場料は20Kn)。僕の旅行経験上ここは間違いなく受付の野郎が「釣りはいらないだろ?」などとぬかして全額もらおうとするパターンであったのだが、ここクロアチアではそうではなかった。彼はしばらく思案した後、
「よし、お前は学生だ。」
 と言って、10Knを受け取り僕を通してくれた。この街の好感度が10Kn相当以上に上がったことは言うまでもない。
 地下宮殿の様子だが、特に圧倒されるような何かがあるわけではない。石造りの静謐な空間は心地よいものであるが、この空間を楽しめるか否かは見る人の想像力にかかっているだろう。数百年前にこの堅固な石造りの宮殿が造られる過程を、或いはこの場所をディオクレティアヌス帝はじめローマ人が闊歩した事実を、想像することができて、自分が今その場所にいることに思いを馳せるような感受性を有している人ならば存分に楽しめると思う。そうでない人にとっては、新宿の飲食店ビルに入っている石造り風の小洒落たレストランにいる方が快適に思えるだろう。


 宮殿の地下に潜ったあとは、是非とも大聖堂の鐘楼に登りたいところであるのだが、工事で閉まっている。このままでは昇降のバランスが取れないので、山に登ることにした。街の西に“マルヤン森林公園”という丸山君のあだ名にも似た小高い丘があるので、そこから街を見下ろすことができる。歩いて10分~15分ほどである。

マルヤンの展望台からの眺め。木が邪魔。

 この丘の中腹にある展望台からさらに上に行くと動物園があるらしく、動物園好きの僕としては是非とも行きたいと思ったのだが、“海外で動物園シリーズ”は南アフリカに行ったときに実行した“アフリカに行ったのに動物園で野生じゃない動物を見る”という行為である種の達成感を得てしまったので、今回は行かずに終わってしまった。