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2008/01/28

チェコに行きます。

 旅の準備ほど楽しいものは無い。
 僕は掌の上で地球を回しながら、行く先を決める。地球は僕の意のままに、時計回りにも反時計回りにも縦にも横にもくるくる回り、僕は次々現れる国々のことを思う。
 それらの国は常に完璧だ。大自然を思うとき、空は常に晴れ渡り、空気は澄み切っている。夜空には毎日月と星と、オーロラが輝いている。そこでは傘も無いのに雨が降り出したり、星の無い空を見上げることなどまるで無い。古代の遺跡を思うとき、そこには遺跡と自分しかいない。法外な入場料を支払ったり、旅行者の記念撮影に付き合わされることも無い。町並みを思うとき、人は皆親切で、食べ物は全ておいしい。スリや強盗や高くて不味い料理に出会うことも無い。飛行機は時刻通りに発着し、バスも鉄道も満席になることはなく、シャワーからはお湯が出て、トイレは流れ、体調は常に良い。
 僕はそれら完璧な国々の中から、チェコを選んだ。プラハの町はさぞ美しかろう。ビールはミネラルウォーターより安いそうだ。サッカーは見れるだろうか。
 航空券を予約するときはいつも緊張する。マウスを動かし、キーボードを叩いただけで、僕の口座から10万単位のお金が移動し、そして僕自身は9000キロ移動するのだ。日程と金額を何度も何度も見直した末に予約確定のボタンを押すときは、清水の舞台から飛び降りるような心地がする。舞台の下の滑走路めがけて飛び降りる。
 必要なものを買い揃えるのがまた楽しい。チェコのコンセント形状に合わせて180円の変換プラグを買った。人生でもっとも幸せな180円の一つだった。一つものを買うごとに自分が目的地に近づいているような気がしてくるのだ。手袋を買おう。写真が撮りやすいよう、指先だけ外せるものがいいだろう。本を買おう。飛行機ではやはりカフカを読むのがいいだろう。海辺じゃない方だ。『地球の歩き方』は四冊目になった。今回初めて『旅の指差し会話帳』も買ってみた。Prepadli me.プシェパドリ ムニェ。「私は強盗に遭った。」指を差す前に自分が刺されていないだろうか。
 旅行を控えていれば、仕事など物の数ではない。どんな嫌な一日だって、その日がやってくれば、旅行の日もまた近づいてくる。高台に上る階段。それが急であればその分だけ高台の景色も美しい。チェスキー・クルムロフは見えるだろうか。