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2010/09/07

トルコ旅行記(2/6)|カッパドキア。地下と地上。

 夜行バスがカッパドキアにある街ギョレメに着いたのは午前8時半。なるほどオトガル(バスターミナル)に立って辺りを見回すだけで、妙な形の岩がゴロゴロしている。まずは日本から予約しておいた宿「Guven Cave House」を探さなければならない。
 他の旅行者が皆それぞれの宿からの迎えにピックアップされていく中での、孤独な戦いだ。そう言えばギョレメに行くと言っていた日本人大学生の姿が見えない。途中に停まった街ネヴシェヒルのオトガルで降りてしまったのかもしれない。道中出会いもあれば別れもある。
 自分の宿を求めて、付近を20分ほど迷ったのち、オトガルから徒歩5分の場所にあったホテルに到着。

 受付に人がいなかったので、呼び鈴を鳴らす。
 ところで、僕はギョレメに着く前あたりからずっと腹痛を感じていた。この腹痛は20分のウォーキングにより良い感じに刺激され、内側からDokkan Dokkanとドアをノックしている。ホストの到着があと5分遅かったら、僕はこのギョレメの大地に散っていたことだろう。
 まずはトイレを借りて爽やかな気持ちを回復してから、3階に上がったレセプションで受付をする。そして、あたりの簡単な説明を受ける。
 「ギョレメ野外博物館はここから2kmで、キノコ岩はここから……。」
 キロ数でいわれてもさっぱりわからないし、一切覚えられなかったけれど、とりあえずうなずいておく。
 まだ部屋は空いていないらしいので、説明を受けた「ギョレメ野外博物館」へ行ってみることにする。「野外博物館」というジャンルがあろうとは。
 博物館への道中、これぞカッパドキアと言うべき、妙な景観が広がっている。
 何と言うか、ドラゴンボールとしか言いようがない。悟空が「場所を変えっぞ。」と言って飛んでいく先であり、ピッコロさんがフワフワしているあの場所だ。



 ギョレメ野外博物館には、20分ほどで到着した。

 チケットを買い、10台中9台が故障している改札口を通って中へ。野外なので当たり前だけど、外観は博物館の外と同じだ。ただ、横穴が掘られている。

 横穴の中は教会になっている。一部の部屋の天井にはイエスらの絵が描かれている(一部撮影禁止)。現代的な視点から何も考えずにこの絵を見れば稚拙としか言えないけれど、大切なのは想像力だ。
 彼らはこの多彩な色をどこから持ってきたのだろう。そしてどんな明かりでこれらの絵を見たのだろう。




 博物館を出て、宿に戻る途中、50歳くらいのおばちゃんに話しかけられる。どうやら博物館に行くか決めかねているらしい。いかにも足腰には自信が無さそうだ。
 「ここからどのくらいかかるかしら?」
 「たぶん15分くらいですかねー。」
 「そう……、あの、日陰はあるかしら?(笑)」
 博物館には木もカフェもあるから大丈夫だと伝えたけれど、あのおばちゃんは結局どうしただろうか。
 「年をとってから旅行するのは大変だ」などと他人ごとのように思っていたけれど、そこから少し歩いたところで、急にふくらはぎがつりそうになる。
 そう言えばここのところ、まともな場所で寝ていない。飛行機の座席に、空港の椅子に、バスの座席。椅子ばっかりだ。僕は基本的にどこでも寝ることができるけれど、それで疲れが取れるかはまた別の問題であるようだ。
 宿に戻り、部屋に通される。101号室。
 Booking.comで「Cave Single Room」を予約したのだが、洞窟を思わせるものは何一つ存在していない。そしてなぜかベッドが3つある。もちろん文句はないのだけれど、ベッドが3つあっても疲れが3倍取れるわけではない。

 さっそくシャワーを浴びる。シャワーというよりはホースに近いけれども。水が出てくる穴が分かれていない。シャワーのアイデンティティーは、穴の数で保たれているんだな。トルコは色々なことを教えてくれる。
 シャワーのレバーを赤い印のほうに回してから引き上げる。最初は冷水だけれども、一分ほどすると、「お湯を出したいという意図の感じられる水」が出てくる。
 残念ながら結果は出ていないけれど、その姿勢は評価したい。しばらく浴びていると、水の温度が上がったように感じられるが、体温が下がっただけかもしれない。
 日本を出発してからの経過時間がよくわからないけれど、約2日ぶりのシャワーだ。日本から持参した牛乳石鹸で全身を洗う。髪の毛も牛乳石鹸。ひげを剃り、歯をみがき、洗濯をする。洗濯も牛乳石鹸。
 体力的に限界に来ているようなので、30分ほど昼寝をすることにする。気持ちとしてはもっと眠りたいけれど、制限なしで寝てしまったらきっと一日が終わる。頑張れ自分。寝るのは日本でもできる。

 50分後に起床。やはりベッドは快適だ。
 次の目的地をカイマクルの地下都市に定めて、オトガルまで歩く。
 『地球の歩き方』によると、カイマクルへは近くの街ネヴシェヒルのオトガルからバスが出ているとのことなので、とりあえずネヴシェヒルを目指す。
 ギョレメのオトガルに立ち並ぶ、バス会社のオフィス(プレハブ)に入り、ネヴシェヒルに行くにはどうしたらよいか聞くと、「あの白いバスだ。」と教えてくれた。
 ありがとう。オトガルに停まっているバスはほぼ全部白だけれど。

 指さされた方向にあるバスのとりあえず近くまで行き、周りをウロウロしていた運転手に聞いてバスを特定することができた。
 バスは14時にオトガルを出発した。ネヴシェヒルまでの道中、人々がかなり自由な場所で乗り降りしている。これはバスというよりも「ドルムシュ」と呼ばれる乗り合いタクシーではなかろうか。期せずしてドルムシュを乗りこなし、また一つトルコ通への階段を登った感慨に浸っているうちに、ネヴシェヒルに到着した。
 しかし、着いた場所はどう見てもオトガルではなく、ものすごく街中の道端だ。

 戸惑っていると、バス(ドルムシュ?)に同乗する集金係のオヤジが声をかけてくれた。
 「どこに行くんだ?」
 「カイマクルに行きたい。」
 「そうか。向かいのバス停で待てば、10分後に来るぞ。」
 その言葉を信じて道の反対側にあるバス停で待つ。バス停で待っている他の人は明らかに地元の人だ。明らかに浮いている極東からきた旅行者。
 やがてカイマクル行きのバス(これもドルムシュ?)がやって来た。窓の上にデカデカと「カイマクル」と書いてあってわかりやすい。本体に直に書いてあるけれど、帰りはどうするのだろう。

 そうして乗り込んだバスは(たぶん)快調に(おそらく)カイマクルに向かって走っている。『歩き方』に所要時間として書いてあった20分はゆうに経過していたけれど。
 最初は不安だったけれど、トルコの片隅で行く先もわからないバスに乗っている自分の姿を思い、楽しくなってくる。そういえば一人旅は、このどこに行くのかもわからない状況が何よりも面白いのだった。タクシーやツアーでは味わえないこのストレスがたまらない。。
 ほどなくしてバスは「カイマクル」の道路標識を通過。どうやらカイマクルの街に入ったらしい。地下都市がカイマクルのどこにあるのかが全く不明だけれども、たぶん何とかなるだろう。
 ある場所で車内にいたほとんどの人が降りたので、このタイミングで運転席の後ろに移動する。地下都市のことを聞こうとしたが、声をかけるまでもなく、「次だよ」と教えてくれた。

 地下都市の近くにある駐車場には大型バスが3~4台停まっていた。ツアー客に対して、羨望と蔑みと自負の入り混じった気持ちをいだきつつ、その横を通り抜ける。
 入場料を払い、入り口にいたガイドを断り、地下都市の中へ。

 もちろん案内板はあるけれど、脇にそれることのできる横穴が多くあり、気を抜いたら本気で迷いそうだ。また、順路でもトラウマになりそうなほど細い通路を通る必要がある。入り口で横幅の制限が必要だと思う。






地下都市の中では、生活スペースが区切られており、部屋ごとに「キッチン」や「ワイナリー」などの表示がされていた。ただひとつ解せなかった表示が「トンネル」だ。トンネルじゃない場所があるのだろうか。


 帰りのバスにも「カイマクル」と書いてあった。僕が乗ったときには乗客は3人しかいなかったけれど、道中人を拾いながら進み、最終的に立ちの人まで出る大盛況になった。乗車ポイント近くでクラクションを鳴らし、近づいていることを知らせているようだ。また、短い距離であったらドアを開けっ放しで走る。

 ネヴシェヒルのバス停に戻ると、ちょうど反対側に「ウチヒサル」と書いてあるバスが到着するのが見えた。
 ウチヒサルは、ギョレメとネヴシェヒルの間にある岩の城砦だ。
 ネヴシェヒルに向かうバスからその姿が見えていて気になっていたので、思わずそのバスに飛び乗った。
 バスの終点まで乗っていたら、だいぶ城砦の近くまで来ていたので、歩いて向かう。
 少しお腹が空いていたので、近くにあった「ファーストフード」と書かれた店に入り、ミックス・ケバブとコーラを注文。軽くつまむつもりだったけれど、予想外のボリュームで襲ってきた。日本代表として残すわけにはいかないので、気合で完食する。


 満腹でウチヒサルへ。

 ウチヒサルの入場料は4TL。『歩き方』よりも若干値上がりしている。これに限らず、トルコでは交通費など諸々がインフレ気味である。
 ウチヒサルの内部はカイマクルとほぼ同じ。奇妙な光景も立て続けに見れば日常である。しかし、ウチヒサルの真価はここにあらず。頂上からの眺望が実に素晴らしい。ちょうど日が傾いてきて、大地の凹凸を際立たせていた。




 できれば地面が夕日に染まるまでそこにいたかったけれど、夏の日は長くそれまで大分時間がありそうだったことと、日没以降の交通に不安があったため、30分ほど過ごしてから下山(?)した。
 ウチヒサルからギョレメへの帰りかたがわからなかったので、親切そうな土産物屋のお姉さんに聞くと、15分ほど歩いたところにバス停があると教えてくれた。
 それに従って歩いていると、途中二股に分かれる箇所があったので、道端にたむろしていたオヤジの群れに聞く。
 そしてまた途中にあった別のバス停にいたお姉さんにも聞いて、目的のバス停にたどり着くことができた。
 みんなありがとう。いろいろな人に助けられて僕の旅行は少しずつ前に進んでいます。「一人旅」は、「一人」と言いつつも人々の善意を前提にするものなのかもしれない。

 無事にギョレメのオトガルに帰ってきた。今夜一泊して、明日の朝にはここを発つことにした。
 カッパドキアで有名な「キノコ岩」を見ていなかったけれど、わざわざキノコ岩がキノコの形をしていることを僕が改めて確認する必要もないだろう。たとえ僕がキノコに見えなかったとしても、それはキノコ岩であり続けるのだから。
 オトガルにあるバス会社「メトロ・トゥリズム」のプレハブで、サフランボル行きのバスを予約する。名前を書けと言われて買いて渡したのに、チケットに印刷された名前は間違っていた。出発は朝の8時半だ。

 気が付くと日が沈みかけていた。この奇妙な岩肌に夕日があたればたいそう綺麗だろうなぁと思うと、高台に上らずにはいられなくなった。オトガルの前にあるレンタルバイク屋で自転車を借りる。
 渡されたマウンテンバイクで、くぼ地にあるギョレメのオトガルから、高台のほうへ坂を自転車で一気に駆け上がる。
 …はずだったけれど、想像以上に坂が急だったので、自転車を押して登る。借りるんじゃなかった。
 汗だくになりながら坂道を登りきり、自転車で少し走って見晴らしの良い場所へ。そこから、傾いた日に照らされたカッパドキアの大地を見る。




 日が沈むと、下り坂を自転車で一気に駆け下りて、オトガルへ。自転車を返して、夕飯を食べてから宿へ。21時に就寝。朝一から活動していると、21時が限界だ。



 明日はサフランボルに行く。
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