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2012/03/24

キナバル山登山記録(1/4)|日本→シンガポール

2011年9月3日(土)日本
 前日の夜、日本代表が北朝鮮のゴールをこじ開けることができずに苦しんでいる間、僕は僕で洗濯機のフタを開けることができずに苦しんでいた。
 吉田麻也は頭で、僕は手で何とかそれをこじ開けてから眠りについたのは深夜1時半。翌日の飛行機は午前便だ。寝過ごす可能性を強く感じながら就寝したのだった。

 そして翌日、目覚ましよりも早く、5時半に起床。これが遠足の日を迎えた少年の気持ちを失っていない証拠ととるか、長く飼い慣らされたサラリーマン根性に寄るものかは議論の余地がある。いずれにせよ、寝過ごさずに済んで良かった。
 シャワーを浴びてから洗濯機を回し、洗い物をする。洗い物は毎日やってくる夏休みの宿題のようなもので、溜めるのは相当に危険だ。
 今日は無事に開いた洗濯機のフタから洗濯物を取り出して、部屋に干す。外は台風の影響で風が強く吹いているけれど、まだ雨は降っていない。台風の進路によっては飛行機が欠航になる可能性も十分にあり得たけれど、なんとか大丈夫そうだ。
 戸締りを確認して、7時40分に家を出てバス停へ。飛行機は飛んでもバスが運行を停止していたら面白いなぁなどと一人ニヤニヤしていたが、バスは普段通りに遅れてやってきた。
 駅で電車に乗りかえて、成田空港へ向かう。バス代も電車代もsuicaでお支払い。おかげで小銭は全て家に置いてきている。便利になった世の中に感謝。今まで出会った全ての人に感謝。YO!YO!
 さて、9時半に成田空港に到着。自分が羽田発の可能性を一切考慮せずにここまで来たことにふと気づき、一瞬背筋が冷たくなる。結果的に成田発だったので問題ないのだが、いつかやらかしそうな予感がする。
 JALのチェックインカウンターは長蛇の列。JALで海外旅行に行くのは久しぶりだけれど、総じて乗客の平均年齢が高い印象。そのためかどうかはわからないけれど、Webチェックインはガラガラなので、手短に手続きを済ませてゲートへ向かう。
 手荷物検査と出国ゲートをつつがなくくぐり抜けると、目の前にはきらびやかな免税店が目の前に立ち並んでいる。しかしながら、酒、タバコ、化粧品その全てに縁のない僕にとっては全く無用の代物である。
 免税店の間をすり抜けて、86番ゲートに向かう途中ではたと気づいた。海外旅行保険に加入していない。海外旅行保険は楽天カードで電車代を支払いして適用させるつもりであったのだけれど、すっかり忘れてsuicaで成田まで来てしまった。何も考えずに便利な世の中に感謝していたあのころの自分を叱り飛ばしてやりたい。
 やむなく自動販売機的なマシーンで保険に加入する。4,000円の余計な出費だ。次回からは気を付けようと思うけれど、前回のバルト三国縦断のときも忘れたので、また忘れるだろう。
 JL719便シンガポール行きの出発時刻は10時55分。搭乗開始は10分前から。まずは富豪と子どもが乗り、その後平民が後ろの席から順に乗り込む。
 富豪が登場を開始し、平民の順番が来るまでの間、民はゲートの前に列を作って待っている。このようにして人々がわざわざわれ先にとあの狭苦しい席に座りたがるのかは長年の疑問だ。先着何名かはテレビや冷蔵庫が安く買えるのだろうか。

 程なくして平民の入場が許される。待合の椅子に座って観察してみたところ、特に後方の席から順に案内されているようには見えない。僕は後方の席であったため、列に並んだ人々をあわよくばごぼう抜きしてやろうと思っていたので、残念である。
 列が短くなってからそれに加わると、前の方で小さいじいさんが職員に食ってかかっている。
 「後ろの席からって言っているのに、全然その通りになっていないじゃないか!」
 「申し訳ありません。皆様並ばれてしまったもので……。」
 「(座席番号を書いた案内板を指さし)だったらあんなもの書かなければ良いんだよ。失礼な!」
 後方の席から順に案内しないことが、誰に対して失礼にあたるのか皆目わからないけれど、仮にあのじいさんに対して失礼にあたるならば、じいさんは僕の想像もつかないほど高貴な御仁なのだろう。そんな方と同乗を賜われるのかと思うと、身の引き締まる思いだ。
 空港では四六時中最終搭乗時刻の案内と、ゲートに現れない乗客の呼び出しアナウンスが鳴り響いているけれど、僕らの飛行機はスムーズに全員が搭乗を終えたとのことだ。あとは出発を待つばかりかと思いきや、ここでトラブルが発生する。

 この日、成田空港の荷物を仕分けするシステムが壊れたらしく、全ての荷物を手作業で仕分けして積み込みをしているらしい。このため出発が遅れる見込みだと機内アナウンスがあった。しかも、手作業のためいつ終わるか目処が経っていないという。
 しばらくの間、機内で作業完了を待つことに。荷物を預けていない僕としては、「何なら積まずに飛んでくれ。燃費もきっと良い。」と思ったけど、大人だから口には出さずに待つ。
 出発予定時刻から40分が過ぎたころ、再びアナウンスが流れる。
 「ただ今、1つのコンテナを積み終えたとの報告がございました。……残りのコンテナはあと3つとなります。」
 予想外の進捗率にどよめく機内。残りのコンテナ数を告げるまでに微妙な間を取った演出が心憎い。残りのコンテナを積むのに、単純計算であと120分かかる。イギリスの若者なら暴動を起こしてもおかしくないけれど、日本人満載の機内は一瞬ざわついただけで、とても静かだ。
 これだけロスタイムがあったら吉田麻也に難点獲られるかわかったものではないなと思っていたが、意外なことにその後30分ほどたったのち、全ての積み込みが終了したとのアナウンスが流れる。突然のペースアップ。手作業業界に余程のイノベーションが起きたのか、色々と諦めたのかはわからないが、何よりである。飛行機は定刻より1時間程度の遅れをもって、成田空港を飛び立った。


 シンガポール、チャンギ空港までは6時間半。これまで12~13時間のフライトを常としてきた自分にとってはとても短い時間だ。


 機内食はシーフードパエリア。もう一つのメニューが良かったのだけれど、完売のため有無を言わさずにパエリア。乗務員に「よろしいですか?」と聞かれたのだけど、「はい。」としか答えようがない。


 映画を3本見終わったところで、ちょうど飛行機はシンガポール、チャンギ空港への着陸態勢に入る。現地の時刻は18時半。日本から-1時間の時差がある。


 大混雑の入国審査を信頼の菊の御紋でくぐり抜け、シンガポールへ入国。入国したは良いものの、シンガポールは1泊の予定で、ガイドブックも持っていない。Hostelworldで一番人気のホテルだけは調べておいたので、とりあえずそこを目指す。
 新生銀行のキャシュカードを使い、ATMで100シンガポールドル(約6,500円)を引き出してから、空港内のビジターセンターにいる美人のお姉さんにホテルまでの行き方を聞く。目当てのホテルRucksack Innに行くためには、3回も地下鉄(MRT)を乗り継がなくてはいけないらしい。
 MRT乗り場へ向かう道すがら、先ほどATMで引き出したばかりのお金のうち、10ドル札を一枚落としたらしいことに気づく。海外旅行中、少額のお札と小銭はズボンのポケットに入れているのだが、今回履いているのはいつものジーンズではなく、登山用のパンツであったため、ポケットの角度がいつもより深くなっていたことに注意を払っていなかった。加えて、シンガポールのお札がやたらツルツルしていたので、「落としそうだなぁ」などと薄々感じていたら、ものの30分で本当に落とした。志半ばで僕の手元を離れたあいつの死を無駄にすまいと、僕は全てのお札をファスナー付きのポケットに移した。




 ターミナルを移動して、いくつかのエスカレータを降りると、MRT乗り場に到着。ここでMRT券売機と僕の壮絶な戦いが始まる。まずは遠くから他人が操作している様子をうかがい、全体の流れをつかむ。そうしてからやつと対峙する。あまりキョロキョロと注意書きを目で追ってしまうと初心者であることが悟られてしまうので、目線はあくまでゆっくりと動かして、こっそり注意書きを凝視する。
 券種で普通の乗車券を選択し、行き先の駅を画面でタッチする。画面上に値段が表示される。ここまでは順調だ。
 ここで事件が発生する。気配を感じて後ろを振り返ると、なんと僕の後ろに人が並んでいた。その地元民が放つ圧倒的なプレッシャー。だがあとはお金を入れるだけのはず。「落ち着け」と自分に言い聞かせながら、10ドル札を券売機に投入する。
 しかし、券売機はこれを拒否。ものも言わずに一旦飲み込んだはずのお札を吐き出す。「くそっ……」動揺を隠せずにいるところに、一筋の光明とも言うべきメッセージを発見する。"お札は左に揃えて入れてください"。すかざすお札を再投入。これ以上無いほどの左寄せ。だがしかし、券売機は再びこれを拒否。
 これは為す術なし。たまらず券売機から離脱する。少し距離を置き、乱れた呼吸を整える。地元民がスムーズかつスマートにチケットを購入し終えたあと、もう1度券売機の前に立ち、仔細にそれを眺める。
 金属質な筐体、何かを象徴するかのような路線図、地獄の底に通じるコイン投入口、そしてどこまでも無慈悲な紙幣の投入口。そしてそこで答えを発見する。紙幣投入口の横に書かれたイラストは、紙幣は5ドルまでしか受け付けないことをこの世界に向けてしっかりと発信していたのであった。
 答えは見つかった。しかし手元には10ドル紙幣しかない。もうこのまま諦めてこのまま日本に帰るしかないと思い、券売機から視線を外したその先に神の啓示、いや紙の掲示が。
 "両替は改札横のオフィスまで"
 改札口は券売機の後に行くものだとばかり思い込んでいた自分の不明を恥じるしかない。僕は打ちひしがれた思いで改札口へ向かい、10ドル紙幣を両替してもらった。
 そんなこんなで買ったチケットでMRTに乗車する。MRTの車内は清潔だけど、乗客のマナーはあまり良くない







 宿の最寄駅まで1時間近くかかったけれど、無事に到着。住所と地図を頼りにRucksack Innまで歩く。シンガポールはゴミひとつ落ちていないイメージであったけれど、少なくともひとつは落ちていた。





 無事にホテルまで到着し、入口のブザーを押してから中に入る。そしてあとはお決まりのフレーズだ。
 「予約していないのだけれど、部屋は空いてる?」
 「…No.」
 まさかの満室。完全に油断していた。他に宿のあても無いので困っていると、フロントの兄ちゃんが系列の宿なら空いているという。距離はタクシーで10ドルくらいとのこと。1泊28ドルの宿に10ドルかけてタクシーで行くのもどうかと思ったので、MRTで行けるか聞いてみたところ、
 「シンガポールに詳しくないなら、タクシーで行くことを強くおすすめするよ。」
 とのこと。
 僕もどちらかと言えばシンガポールに詳しくないほう(初めて来た)なので、大人しくタクシーで向かうことにした。
 そしてタクシーでRucksack InnのLavender St.店へ。望外にクールな宿。入口はカードキー式で、共用のパソコンはいずれもMac。相部屋のベッドルームでは靴を脱ぐのでとても清潔だ。





 気づけば時刻は夜の9時。夕食を取るべく、フロントの兄ちゃんにオススメを聞くと、近くにローカルな雰囲気の屋台村的な場所があるというので行ってみる。



 宿から徒歩5分。比較的静かな街で際立って賑やかな雰囲気の場所だ。フードコートのようになっており、中華料理の屋台が20軒程度立ち並んでいる。





 どれも美味しそうで目移りしてしまう。麺が食べたかったので、魚のスープ的な麺を買ってみる。3ドル。麺が美味い。チープな器がまた良い。



 これだけでそこそこお腹は満たされていたけれど、せっかくなので他のものも食べてみたい。
 点心の屋台に行き、「これは何?」と指を差してみたら、注文したことになったのでそれをいただく。ちまきとシュウマイ的な何か。シュウマイの中に入っている何かのプリプリ感が何だかすごくうまい。これまでの人生で食べた点心で一番おいしかった。





 もはや完全に満腹ではあるが、デザートを食べずには終われないので、杏仁とロンガンのかき氷を食べる。そこそこうまい。



 はちきれそうな胃袋を抱えて、夜のシンガポールを散策する。黒いハートを背負った猫がいた。



 セブンイレブンでTiger Beerを買って、宿に戻る。ビールを飲んでからシャワーを浴びて、洗濯を済ましてからベッドへ。明日は10時半の飛行機でクアラルンプール、そしてキナバル山のあるコタキナバルへ向かう。
 朝早く起きて、シンガポールの街をもう少し見てから空港へ向かうため、目覚ましを6時にセットして就寝。