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2012/10/14

アイルランド旅行記(2/8)|ゴールウェイ。ドゥーラン。心のないミサと味のしない鈍器。

2012年9月2日(日) ダブリン。
 僕は地球上のどこにいても朝6時に起きる。

 7時前には宿を出て、喧騒の残滓が散らばるダブリンの街をリフィ川に沿って西へ歩く。川を挟んだ南側には、ギネスの大きな醸造所が見える。



 ダブリンには3つの駅があり、そのうち西の玄関口になるのがダブリン・ヒューストン駅だ。ここから列車に乗って、アイルランド西部の中心都市ゴールウェイ(Galway)を目指す。間違って「快適で豊かなカジュアルライフのサポーター」ゴールウェイ(Goalway)に行かないよう注意が必要だ。

 ダブリンからゴールウェイに行くには、列車以外にもバスで行く方法があり、実はバスのほうが安い。しかしながら日本人である以上は国民の三大義務の一つである「世界の車窓からごっこをする義務」を果たさないわけにはいかない。


 ダブリンからゴールウェイまでは2時間半。仮面ライダーのような列車は定刻の8時半にダブリン・ヒューストン駅を出発した。


 駅を出て、街並みが続くのはほんの5分ほど。それを過ぎればあとの風景は牧場、牧場、川、牧場、牧場、道、川、また牧場。牛と馬と羊が代わる代わる現れて、ゴールウェイに着くまでに十二支が揃うのではないかとハラハラした。




 ゴールウェイ到着は11時。西部の中心都市とは言え、ゴールウェイの人口はわずか7万人。『地球の歩き方』によるとその5分の1が学生だということなので、近隣住民はさぞストレスが溜まっていることだろう。

 街は観光客にとってはシンプルな造りで、駅前にある公園からメインの通りを南に下っていくだけで、見所はだいたい周ることができる。

 まずは「The galway roast」なるカフェでコーヒーを一杯。「カフェ店員は顔採用」というグローバルな法則を再確認する。


 そのまま道を下っていくと、「FREE(W-Fi) (awesome)FOOD TODAY(and everyday)」というふざけた看板の店を発見。折角なのでその店「Ard Bia」で昼食にする。看板の割に内装はおしゃれな店内で、クラブハウスサンドイッチを注文。



 名前の響きでつい頼んでしまったけれど、僕はカニがあまり好きではない。

 メイン通りの南端、コリブ川沿いにある「スペイン門」は、1594年に建設された。決して大きくはないけれど重厚で堅固なその造りは、かつて貿易の拠点として栄えたこの街の姿を思い起こさせる。けれど、普通のリコーダーでストリートに繰り出しているおじさんの勇気に魅せられてそれどころではなかった。


 旅行中は毎日が休日のようなものなので、曜日感覚が乏しくなる。

 街の西にあるゴールウェイ大聖堂へ行き、何の気なしに中へ入ってみると、ミサの真っ最中であった。そこで今日が日曜日であることに思いいたる。
 今さら慌てて引き返すのもかっこ悪いので、「元々ミサに来るつもりだったけれど遅れて申し訳ない風」に奥へと進み、そのまま参加することにした。
 当初は10分くらいで終わるものと踏んで、周りに合わせていればそれで良いだろうと軽く思っていた。しかし不思議なもので、ミサが20分、30分と続くにつれ、僕も真剣な気持ちで神に祈るようになっていた。
 おぉ神よ。このミサを早く終わらせ給え。
 不謹慎のお詫びに少額の寄付をして、聖堂の中を見て回る。




 大聖堂を後にして、再びゴールウェイの駅に戻る。時刻は13時半。実は今日の目的地はここゴールウェイにあらず。駅隣接のバスターミナルから、14時のバスでゴールウェイを発ち、ドゥーランを目指す。
 ドゥーランはゴールウェイから南に70キロほど下ったところにある小さな村だ。この村は、「モハーの断崖」や「バラン高原」といった観光名所の拠点となるほか、ゴールウェイ湾に浮かぶアラン諸島へと向かうフェリーが出ている。僕は翌日にフェリーでアラン諸島へ渡るべく、この村を訪れることにしていた。

 バスの車窓から。


 1時間ほどでドゥーランに到着。物憂げなロバが佇むのどかな村。


 今夜の寝床を求めて、バス停のすぐ近くにある「Aille River Hostel」へ。川沿いに建つ石造りの可愛らしい宿だ。

 受付に入るとスタッフは外出中であった。「10分~15分で戻るよ」という張り紙を眺めて待つこと20分。ようやく戻ってきて、無事にベッドを確保することができた。


 自転車を借りて付近を散策しようと、歩いて5分ほどのところにある「Rainbow Hostel」へ行ったのだが、オーナーが不在ということで借りることができなかった。
 この村にある宿のスタッフはちっとも宿にいないな。
 代わりに、下見を兼ねてフェリーの出る港まで散歩する。村の中心から港までは歩くと30分弱かかるので、早めに出発する必要がありそうだ。




 海辺の風は強く、少し肌寒い。翌日のチケットは買わずに宿へと戻る。明日になったらアラン諸島へ行く気がなくなっているかもしれない。


 ところで、人が何かを学ぶのに時間はさして重要ではない。僕はこの短い散歩の間に2つのことを学んだ。
 ひとつ。ドアは赤いほうが良い。将来家を建てることがあれば、ドアは赤くしようと思う。

 そしてもうひとつ。牛のなかにも写真のときに目をつむってしまうやつがいる。


 夕食。残念ながら中華料理屋は無いようなので、アイルランドらしくパブへ。
 「McGann's」は9時前にして既にほぼ満席。カウンターに腰掛けてギネスを注文。

 バーテンがグラスを傾けて、サーバーのレバーを手前に倒す。勢い良く吹き出した黒い液体が渦を巻いたそのすぐ後で、グラスが褐色がかった泡で一杯になる。そしてその状態で泡が落ち着くまでしばらく寝かせる。7割がた泡で埋まったグラスを見て、「このバイト新人だな…」と思ったのは内緒だ。

 そしてクリームのような泡が半分ほどになったところで、その下をくぐらすようにして残りを注ぎ、ギネスが完成。
 さっそく一口。
 味の違いはよくわからないけれど、いつかのCMで見たような、口をつけた跡が泡に残っている。これが本場のテクニックか。


 ギネス以上に本場の力を見せつけられたのが、一緒に注文したフィッシュ&チップスだ。まずは軽くつまむものをという位置づけで頼んだのだが、ほどなくして運ばれてきたのは、鈍器のような魚の塊。これを凶器にして殺人事件が起きたとしても不思議ではない。

 そして驚くべきはその味。ほぼ無味。「白身魚を揚げた味」から一歩も前に進んでいない。
 僕は揚げ物にタレをつけないことが多いのだけれど、これには流石に添えられたケチャップ、マヨネーズ、ビネガー、塩を投入せざるを得ない。結果として、前述したソースの味しかしなくなるため、もはや本体はどうでも良くなってくる。
 英国圏料理の恐ろしさを実感した夜であった。

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