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2012/10/22

アイルランド旅行記(4/8)|コーク。エアリアルと蝋人形。

2012年9月4日(火) ゴールウェイ

 「フル・ブレックファースト」とはイギリス式の伝統的な朝食で、地域によって「イングリッシュ・ブレックファースト」や「アイリッシュ・ブレックファースト」と呼ばれる。簡素な大陸式(コンチネンタル・ブレックファースト)に対して、比較的豪勢な朝食を指すのだそうだけれど、具体的に何がそのアイデンティティを支えているのかは定かではない。
 いずれにせよ、ここAshford Manorにおいて、初めてのアイリッシュ・ブレックファーストを体験した。

 トーストに目玉焼き、トマト、ベーコン、ソーセージ。少し珍しいことろでトマト(ケチャップ)風味のベイクドビーンズ。そして紅茶。
 日本人の感覚からすれば、これでも簡素な食事の範疇に入るのではないかと思えてしまう。これがフルならば、ご飯・味噌汁・焼き魚に卵焼きがついた日本の朝食は、フル・トリプルフル・フルで冬季五輪金メダルを狙えるレベルにある。

 効率と価格を考えると、アイルランドの国内移動はバスが中心となる。北アイルランドを除く全土をカバーしているのが「Bus Eireann」だ。夜行バスの運行がないのと、何と読むのかよく分からないのが残念だけれど、路線網が網の目のように張り巡らされていて、利用価値は高い。

 チケットは自動券売機で買うことができて、出発地、到着地をアルファベットで検索できるし、クレジットカードも利用可能。

 僕は9時のエクスプレス・バスでゴールウェイを出発。途中、リムリックでバスを乗り換えて、コークへ到着したのは正午頃であった。

 コークは南部に位置するアイルランド第2の都市で、人口は約12万人。「コーク」という名前の由来は「ぬかるんだ場所」から来ているらしく、ダブリンの由来である「黒い水たまり」と合わせて、アイルランドの水はけが心配になる。

 宿は鉄道駅の近くにあるB&B「Clon Ross」。僕はあまりに人が良さそうな人物が接客業に従事しているのを見ると、何となくハラハラするのだけれど、Clon Rossのおばちゃんからは正にそのような印象を受けた。線が細くて、白髪の小さなおばちゃんで、ホスピタリティに溢れている。僕が出かけるときも、「ちゃんと帰り道がわかる? Clon Rossという名前よ。」と心配してくれた。孫か。

 ドゥーランで食べたフィッシュ&チップスの反省から、アイルランド人に魚介類を扱わせるのは危険だと判断した僕は、昼食に立ち寄ったレストラン「Issacs」で、スープとアイリッシュ・ビーフをオーダー。牛肉は赤身の味がしっかりして美味しい。






 僕の実家の近くに、由緒貧しき寺がある。その寺には鐘があり、毎朝6時になると鐘つきがその鐘を鳴らすのだけれど、それ以外の時は橦木に鎖が巻きつけられて、勝手に鳴らすことができないようになっている。
 一方、コークの高台にある聖アン教会は、高さ37メートルの鐘楼を持ち、その鐘を誰でも自由に鳴らすことができる。

 階段を上がった2階に鐘楼につながった金属の弦があり、これを下に引くことで、鐘が音を奏でる。この機会に僕の熱いパッションをこの演奏にぶつけようとしたけれど、結局ごく控えめにしか鳴らすことができず、日本人としての限界を感じた。


 ちなみにこの後で鐘楼に登るのだけれど、その際に鐘のすぐ横を通る。この時に他の誰かが鐘を鳴らすと耳がやられるため、入場時に防音用のヘッドホンが渡される。
 鐘楼の上からコークの街を見下ろす。時おり吹き抜ける風と、足元で鳴る鈍い鐘の音が心地良い。

 聖アン教会は今も現役で、手書きで書かれたお知らせなどのアットホームな雰囲気が、小さな建物の中に満ち満ちている。




 街の中心にあるイングリッシュマーケットの歴史は1610年に遡るという。アーケードの下に幾つもの食料品店ひしめき合う。しゃがれた声で「お兄さん、はいマグロ1,000円。1,000円で良いよ」というオヤジはいない模様。


 街の西にある旧コーク市刑務所は1824年から1923年まで利用されていた。その門構えはどう見てもクッパ城である。



 そしてその門をくぐった先にあるのは、刑務所とは思えない端正な外観の建物で、これならば我が家のほうが余程独房に近い。

 刑務所は展示に工夫が凝らされていて、とても面白い。まずは必要以上にリアルな蝋人形。日本では足尾銅山の蝋人形が良い味を出していたけれども、それに比肩する出来といって良い。





 そして日本語のオーディオガイド。懐かしのカセットテープから、今にも擦り切れそうな音声で、刑務所の歴史を解説。蝋人形たちにまつわるエピソードも披露され、あまりに具体的過ぎてどこまでが本当なのか判別がつかない。
 また、オーディオガイドの中で、ごく普通に噛んでいる箇所があることや、刑務所の設計に携わったジョン・ホーガン氏を紹介する際のアクセントが、何回聞いても「方眼紙」にしか聞こえない点も必聴だ。

 刑務所の壁には当時の囚人がかいた落書きが保存されていたり、壁に映像を投射して見せるなど、チープながらも飽きさせない。






 30分ほどの刑期を終えて外に出る。久々にシャバの空気を胸いっぱいに吸い込み、南へ下る。そして街の中心を流れるリー川を渡った所に「フィッツジェラルド公園」がある。何となくお洒落なその響き。
 緑の芝生の上で寝転がる男女に走り回る子ども。木陰のベンチで本を読む青年に、語らう老夫婦。眼の前に広がる幸せな光景に、これからは心を入れ替えて真人間として生きようと固く誓った。



 そんな僕の誓いに呼応するように、空には飛行機雲と虹の欠片が浮かんでいた。


 ファミリーネームが「Mc」で始まる名前は、アイルランドやスコットランドがそのルーツにあるという話を聞いたことがある。
 例えば俳優のユアン・マクレガー(Ewan Gordon McGregor)はスコットランド出身だ。他にも野球選手のマーク・マグワイヤ(Mark David McGwire)同じく野球選手のジョージ・マッケンジー(George McKenzie)、あるいはメジロマックイーン(Mejiro McQueen)などもアイルランド系に違いない。
 そして、マクドナルド(McDonald)もアイルランド系ということは、ハンバーガーの本場はアイルランドと言って良いだろう。
 そんな訳で夕食は「Gourmet Burger Bistro」でマッシュルーム・バーガー。「ビストロ」と言っている時点でアイルランドから離れている気もしないでもない。
 そして、バーガーに刺さっているのがなぜスイス国旗なのかをしばらく考えていたけれど、他のお客さんに運ばれてきたものを見るとスウェーデン国旗だったので、特にこだわりはない模様。

 注文してからハンバーガーが出てくるまでの間に時間があったので、iPhoneで会社のメールをチェックしてみる。ものすごい勢いで上昇する未読メールの数。「そう言えばこんなものに囲まれて暮らしていたこともあったな」と遠い目をして、そっとメールを閉じた。
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